新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、やむを得ず従業員を休業させている企業も少なくありません。実際に新型コロナウイルスに感染したわけではない従業員に仕事を休んでもらう場合には、労働基準法において、休業手当の支払いが企業には求められます。そこでこの記事では、労務トラブルを回避するためにも役立つ、休業手当の正しい算出方法などについて紹介します。
休業手当の算出方法
休業手当を算出する際、その適正額を基本給の6割以上だと考える企業も少なくありません。この割合は、一般的に広く認識されている数字だと言えるかもしれません。しかし、従業員の生活を守るため、また、労務トラブルを回避するためにも、正しい休業手当の知識を身につけ、それに基づいて休業手当を算出する必要があります。まず、適正な休業手当の額は、基本給の6割以上ではなく、平均賃金の6割以上とされています。つまり、このとき、平均賃金を基本給と読み違えてしまうと、正しい休業手当が算出できない原因となるため注意が必要です。
平均賃金が指すものは、休業が発生した日を含まず、その前日から遡った3か月間で支払った賃金の総額を、3か月間の総日数で割った数字を指します。ただ、企業で賃金締切日が設定されている場合は、直前の賃金締切日から遡った3か月間に支払った賃金の総額になるので、企業によって違いが生じることがあるでしょう。支払われた賃金の総額には、通勤手当や残業手当などの諸手当の他、有給休暇の賃金なども含まれます。また、支払いが遅れている賃金がある場合は、未払いであっても、平均賃金に含むよう注意しましょう。一方で、業務内で怪我を負った場合や、病気の療養のために休業した期間、出産に関係する休業期間、育児や介護に関係する休業期間、さらに従業員が試用期間であった場合などは、平均賃金を算出するのに必要な総日数からは控除しなくてはなりません。
こうしたことから、休業手当は単純に基本給の6割以上を支払えば良いというわけではなく、「平均賃金×60%(0.6)×休業期間の総日数=休業手当の適正額」となるのです。このときの平均賃金の算出方法は「休業前の3か月間の総賃金÷3か月間の総日数=平均賃金」となります。加えて、休業手当の算出の際、月給制の場合は、この方法に実際の数字を当てはめることで適正額が求められますが、時給制や日給制の場合では、必ずしもこの方法で算出できるわけではないので注意が必要です。給与の支払いが時給や日給で計算される場合には、平均賃金の算出方法上の労働日数が、実際の労働日数よりも少なくなってしまうケースが生じる事例が多くあります。
したがって、時給制や日給制で働いている労働者の休業手当を算出する際、通常使用する算出方法に当てはめてしまうと、休業手当てを受ける人の平均賃金が低くなってしまい、従業員の不利益となりかねません。こうした対応が原因となり、労務トラブルへと発展する可能性もあるため、給与の体制によって正しく計算する必要があります。こうした場合、3か月間の総賃金を実際の労働日数で割った数字を最低保障とし、この数字を用いて計算します。具体的には、通常の平均賃金の額と、最低保障の額を比較し、両者の高い方を算出方法の公式に用いる平均賃金として、休業手当を計算するのです。つまり「(平均賃金)または(最低保障)の高い方×60%(0.6)×休業日数=時給制、日給制の労働者における休業手当の適正額」となります。
雇用調整助成金について
従業員に休業を求める状況にある場合、企業そのものの経営状態が悪化する可能性が高いと言えます。そうした状況で、従業員の生活や雇用を守るために休業手当を払い続けることが、企業にとって厳しい場合も少なくありません。そうした場合、休業手当の支払いが遅れたり、支払わなかったりすることで、労務トラブルにつながることもあるでしょう。そこで、新型コロナウイルスにより、事業活動の縮小などがやむを得ない場合、事業主は従業員の雇用維持のために休業手当などの一部を国から助成してもらえる、雇用調整助成金という制度を利用することができます。
助成金の割合は、企業の規模によって違いますが、新型コロナウイルスに伴う雇用調整助成金の特例措置では、条件を満たすすべての事業主が対象となっていて、助成金を受け取ることが可能です。条件は3つあり、1つ目が、新型コロナウイルス渦で経営が悪化し、事業活動が縮小した企業、2つ目が、最近1か月間の売り上げや生産量が、前年の同月と比べ5%以上減少しているかどうかです。そして3つ目が、適切な休業を実施し、実際に休業手当を支払っている企業かどうかという条件となっています。
まとめ:従業員と企業を守る休業手当と雇用調整助成金
新型コロナウイルスの感染拡大により、休業を余儀なくされる労働者を守るため、休業手当は重要です。労務トラブルを招かないためにも、企業は適切な算出方法に基づいて休業手当を支払う必要があります。その際、労働者の給与体制によっても算出方法は異なるため、注意が必要です。また、休業手当の一部を国が助成してくれる雇用調整助成金という制度を企業が利用することで、より円滑に休業手当を支払うことにつながるでしょう。